ステーブルコインと兆ドル規模の決済シフト
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パオロ・アルドイーノ、チャールズ・カスカリラ、ロブ・ハディックの視点
背景: ステーブルコインは決済レールとして成熟しつつある
- 急速な成長: ステーブルコインは暗号資産取引所での取引担保として始まったが、2025年半ばまでにグローバル決済の重要な一部となった。ドル建てステーブルコインの時価総額は2024年末までに2,100億米ドルを超え、取引量は26.1兆米ドルに達し、前年比57%増加した。マッキンゼーは、ステーブルコインが毎日およそ300億米ドルの取引を決済しており、年間取引量は27兆米ドルに達すると推定している。これは全資金フローの1%未満ではあるものの、急速に増加している。
- 単なる取引ではなく、実際の決済: ボストン・コンサルティング・グループは、2024年末時点のステーブルコイン取引量の**5~10%(約1.3兆米ドル)が、クロスボーダー送金や企業の財務業務などの実際の決済であったと推定している。クロスボーダー送金は、取引件数のおよそ10%を占める。2025年初頭までに、ステーブルコインは200兆米ドル規模のクロスボーダー決済市場の約3%**で使用されており、資本市場での利用は依然として1%未満である。
- 導入の推進要因: 新興市場: 自国通貨が年間50~60%下落する国々では、ステーブルコインが貯蓄者や企業にデジタルドルを提供している。トルコ、アルゼンチン、ベトナム、ナイジェリア、アフリカの一部地域で特に導入が進んでいる。 テクノロジーとインフラ: 新しいオーケストレーションレイヤーと決済サービスプロバイダー(例: Bridge、Conduit、MoneyGram/USDC via MoneyGram)がブロックチェーンと銀行のレールを連携させ、摩擦を減らし、コンプライアンスを向上させている。 規制: GENIUS法(2025年)は、決済用ステーブルコインに関する米国の連邦フレームワークを確立した。この法律は、厳格な準備金、透明性、およびAML要件を定め、州の制度が「実質的に同等」であるかを決定するためのステーブルコイン認証審査委員会を設置する。これにより、流通量が100億米ドル未満の州認定発行体は、基準が連邦レベルを満たす場合、州の監督下で運営することが可能となる。この明確化は、Visaのような既存の金融機関がステーブルコインを利用した国際送金を試験的に導入することを促し、Visaのマーク・ネルセンは、GENIUS法がステーブルコインを合法化することで「すべてを変えた」と述べている。
パオロ・アルドイーノ(Tether CEO)
ビジョン: 「銀行口座を持たない人々のためのデジタルドル」
- 規模と利用状況: アルドイーノ氏は、USDTが新興市場全体で5億人のユーザーに利用されており、約**35%が貯蓄口座として使用し、取引の60~70%がステーブルコインのみ(暗号資産取引ではない)であると述べている。彼は、USDTが今や「世界で最も利用されているデジタルドル」であり、「ラストマイル、銀行口座を持たない人々のためのドル」として機能していると強調する。Tetherは、その時価総額成長の60%**がアジア、アフリカ、ラテンアメリカでの草の根利用によるものと推定している。
- 新興市場への注力: アルドイーノ氏は、米国では決済システムがすでにうまく機能しているため、ステーブルコインが提供するメリットはわずかであると指摘する。しかし、新興経済国では、ステーブルコインは決済効率を**30~40%**向上させ、高インフレ から貯蓄を保護する。彼は、自国通貨が不安定なトルコ、アルゼンチン、ベトナムにおいて、USDTが金融の生命線となっていると説明する。
- コンプライアンスと規制: アルドイーノ氏はGENIUS法を公に支持している。2025年のBanklessのインタビューで、彼は同法が「国内および海外のステーブルコインに対する強力なフレームワーク」を確立すると述べ、Tetherが海外発行体としてこれに準拠する意向であることを示した。彼はTetherの監視システムと250以上の法執行機関との協力関係を強調し、高いコンプライアンス基準が業界の成熟を助けると述べた。アルドイーノ氏は、米国のフレームワークが他国のテンプレートになると予想し、相互承認によってTetherのオフショアUSDTが広く流通するようになると予測した。
- 準備金と収益性: アルドイーノ氏は、Tetherのトークンが現金および現金同等物によって完全に裏付けられていることを強調する。彼は、同社が約1,250億米ドルの米国債を保有し、1,760億米ドルの総自己資本を有しており、Tetherが米国政府債務の最大の保有者の一つであると述べた。2024年にTetherは137億米ドルの利益を上げ、彼はこれがさらに成長すると予想している。彼はTetherを米国債の分散型購入者として位置づけ、グローバルな保有者を多様化させている。
- インフラへの取り組み: アルドイーノ氏は野心的なアフリカのエネルギープロジェクトを発表した。Tetherは、それぞれ充電式バッテリーを備えた村々にサービスを提供する10万~15万基の太陽光発電マイクロステーションを建設する計画である。サブスクリプションモデル(月額約3米ドル)により、村人たちはバッテリーを交換し、USDTを決済に利用することで、分散型経済を支援する。Tetherはまた、エコシステムを拡大するためにP2P AI、通信、ソーシャルメディアプラットフォームにも投資している。
- 決済シフトに関する視点: アルドイーノ氏は、ステーブルコインを金融包摂にとって変革的なものと捉えており、銀行口座を持たない何十億もの人々がデジタルドルにアクセスできるようにすると考えている。彼は、ステーブルコインは銀行を置き換えるのではなく補完するものであり、高インフレ経済圏の人々にとって米国金融システムへのオンランプを提供すると主張する。また、USDTの成長が米国債への需要を多様化させ、米国政府に利益をもたらすと主張している。